第一回 美瑛フェスティバル

2024.6.12|水|-26|水|

劇映画『Neighbor’s』×ドキュメンタリー映画『人々の大地』
2本立て試写会

映画にはいろいろな作り方があります。もちろん、ものを作ることに正しいやり方なんてありませんが、効率のよさには、きっと取りこぼされていくものがあるだろうと思っています。映画を二本同時に制作・上映しようなんて手間のかかる、欲張りなことを考えたのは、みなさんに「作品」としてオリジナル映画を楽しんでいただきたいのと同時に、映画のフレームの外で起きている現実の「出来事」にも思いを馳せてみてほしかったからです。

最初にご覧いただく『Neighbor’s』(88分)は、監督の田島由深さんが今回の上映のために、オリジナル脚本を執筆し、自ら衣装も考案しました。ファミレスの制服も手作りです。田島さんは、学生の頃、『HIS EYE IS ON THE SPAROW』で映画監督の登竜門として知られるPFFアワード2013のコンペティション部門で入賞し、その後縫製技術を習得して、現在は演劇やCMの衣裳制作を手がけているアーティストです。2児の子育てをしながら、創作に励み、リサーチや撮影期間中は、家族揃って美瑛に滞在していました。

撮影・編集の西村明也さんは、映画・テレビ番組・PV映像の制作や、ダンス、演劇、美術展、イベントなどの記録映像・配信など多岐にわたって活躍する映像作家です。現場で次々に生まれる即興性に寄り添いながらも、レンズの先にある、俳優たちの演技や美瑛の様々な場所・風景を洗練された構図に収めます。ショットの組み合わせが、言葉を越えたイメージの連鎖を生み出し、スクリーンの前の観客に語りかけてくる瞬間にぜひ立ち会っていただきたいです。

映画の中で<Neighbor’s>(ネイバーズ)は、登場人物のルカくんとコウくんがラジオ配信をするファミレスの店名ですが、neighborを辞書で引くと、[隣人]、[近所の人]。映画を観ると、自分にとって隣人とは誰かだけでなく、誰かの隣人に自分が「なる」ことや、他人をケアすることについて色々考えてみたくなるかもしれません。

休憩ののちに、続けてご覧いただくのはドキュメンタリー映画『人々の大地』(100分)です。ドキュメンタリーの底流となる美瑛町郷土資料保存会会長の菅野勝見さんの語りには、美瑛に長年住んでいる方々にとっても新しい知見があると思います。また、『Neighbor’s』を美瑛で撮影するにあたって、昨年5月に、監督の田島さん、撮影の西村さん、プロデューサーの松尾が揃って美瑛に滞在して、一緒につくる仲間を探したり、その後9月に再び美瑛を訪れて、実際に町民の方々と一緒に映画を撮影する様子も収められています。

八島輝京さんは、沖縄・辺野古の人々の暮らしを撮影した『辺野古抄』(2018)、戦乱のためシリアからトルコへの移動を余儀なくされたせっけん職人を撮影した『故郷とせっけん』(2021)などを代表作に持つ、ドキュメンタリー映画監督です。カメラを抱えて、自分の足であらゆる場所に出向き、その土地の人と関係性を築きながら、様々な語りを引き出していきます。八島さん独自の視点をたどって見えてくる、新しい美瑛の姿を探ってみるのも面白いと思います。

家にいながらにして数々の娯楽コンテンツに浸れる時代ですが、是非大きなスクリーンで誰かと一緒に映像を観ていただきたいです。スマホの小さな画面で観るのとも、一人で部屋で観るのとも、家事をしながら観るのともまったく違う体験があるはずです。なお、二本続けて観るのはちょっと長いなあと思って、効率よく、ネットであらすじを拾おうとも、事前に口コミ評価を確認しようとも、それらは一切出てこないので諦めてください。6月の美瑛がワールドプレミアだからです。ここから出発します。

(文・松尾加奈)