第一回 美瑛フェスティバル

2024.6.12|水|-26|水|

岩下徹ダンス公演白樺回廊を踊る みみをすます
(谷川俊太郎同名詩より)

岩下徹のダンスは暖かい。観る人に、忘れていた人間の根幹にあるものを思い起こさせてくれる。彼の踊りは、周りにある物や音、光と影、動物の鳴き声、人々のざわめき、など、それを自分の体に取り込みながら、その一瞬の体と心の反応をダンスにしていく。だから岩下徹のダンスは即興(インプロビゼーシヨン)を特徴としている。即興というと、その場の思いつきで踊っていると思われるかもしれないが、人に見せるに足る即興をやるためには、常日頃から動きについて考え、幾つもの踊りや動きの蓄積があって初めて可能となるものだと思う。その様な意味で、即興のダンスは難しいし、日本のダンサーの中で彼ほど即興にこだわり、その名手と呼ばれるにふさわしい踊り手は他にはいないだろう。

今回の岩下徹のダンスには、決められた音楽はない。ダンスといえば、音楽が付き物だが、岩下徹は、その音楽によって強制されるリズムやテンポを嫌う。しかし、自然の中には、音は常に存在している。「みみをすます」ことができれば、自然の豊かな音が聞こえてくるはずで、それを手がかりに岩下徹がどのような姿をさらし続けることができるのか。ぜひ、実際にそれを見届けていただきたいと願っている。

拓真館前の白樺回廊は、岩下徹の踊りにとって、最高の場所となるに違いない。彼の踊りには、やはり環境の豊かさが必要だと思う。

岩下徹について

岩下徹の踊りを大きく分類すると、「舞踏」と呼ばれる日本の文化が独自に生み出した方法と考え方になるだろう。西洋のダンスのようにジャンプすることもなく、鋭く回転することもない。むしろ日常の動きよりもゆっくりである。体を緊張させるよりは、脱力することをベースにしている。それがどのようなものとなるのか、ぜひお立ちあい下さい。岩下徹を語るのにもう一つの活動を触れないわけにいかないだろう。それは滋賀県にある精神病棟で長年に渡り実施しているダンスセラピーである。硬く凍りついた入院患者の体と心を、彼のダンスはゆっくりと解きほぐしていく。ここでも基礎は脱力だと思う。人の体は、ゆっくり丁寧に他人が触れていくと、力が抜けていく体験をすることができる。新しい自分が見えてくる。岩下徹はそのような活動をもう数十年も続けている。

  • 岩下徹
    ©清水俊洋
  • 岩下徹
    ©bozzo
(文・市村作知雄)